Asporia Trace
Earthquake Information Monitor

目次

Asporia Traceとは

Asporia Trace(アスポリア・トレース)は、地震に関する情報をリアルタイムで閲覧するためのWebアプリケーションとして開発していたものです。名前の由来は特にありません。neplovと同じで、なんとなくつけました。「Asporia」が何語で何を意味するのかと聞かれても困ります。たぶん何語でもないし、何も意味していません。「Trace」のほうは、まあ、追跡とか痕跡とかそういう意味があるので、地震の情報を追いかけるという意味では、かろうじて意味が通っているような気もします。かろうじて。

主な機能としては、EEW(緊急地震速報)の受信と、発生した地震の情報をリアルタイムで表示することを目指していました。画面はダークモードを基調としていて、夜中に地震が来たときにも目が痛くならないようにしたかったのと、単純にダークモードのほうがかっこいいと思ったからです。正直なところ、後者の理由のほうが大きかったかもしれません。

緊急地震速報のイメージ
緊急地震速報のイメージ

α版として一度公開しましたが、現在は公開を終了しています。終了した理由については、このページの後半に書いています。


なぜつくろうとしたのか

日本に住んでいると、地震というのはどうしても避けて通れないものです。大きいものから小さいものまで、年間で数千回は起きているらしいです。体感できるものだけでも、年に何十回かはあるのではないでしょうか。鎌倉に住んでいると、相模トラフのこともありますし、地震のことはわりと身近に感じます。

で、地震が起きたときに何をするかというと、だいたいの人はスマートフォンを見ます。テレビをつける人もいるかもしれません。気象庁のサイトを開く人もいるでしょう。でも、地震が起きた直後というのは、情報がまだ出揃っていなかったり、アクセスが集中してサイトが重くなったりすることがあります。

自分もそういう経験が何度かあって、「地震の情報を、もっとすぐに、もっと見やすく確認できるツールがあったらいいのに」と思うようになりました。それがAsporia Traceをつくろうとした最初のきっかけです。

もちろん、似たようなことをしているサービスはすでに存在しています。むしろたくさんあります。それなのになぜ自分でつくろうとしたのかについては、後で書きます。


緊急地震速報(EEW)について

緊急地震速報、通称EEW(Earthquake Early Warning)は、地震の発生直後に、まだ強い揺れが到達していない地域に対して、揺れが来ることを事前に知らせるシステムです。気象庁が2007年10月に一般向けの提供を開始しました。

仕組みをごく簡単に説明すると、地震が発生すると、まず速度の速いP波(初期微動)が観測されます。このP波のデータから、震源地や地震の規模を素早く推定し、これから来るであろうS波(主要動、つまり大きな揺れ)が届く前に警報を出す、というものです。P波は速いけれど揺れは小さく、S波は遅いけれど揺れが大きい。この速度差を利用しているわけです。

地震波形のイメージ
地震波形のイメージ

ただし、震源に近い場所ではP波とS波の到達時間差が非常に小さいため、速報が届く前に揺れが来てしまうこともあります。また、地震の規模の推定は初期のデータに基づいているため、実際の揺れとは異なることもあります。過大評価されることもあれば、過小評価されることもあります。技術的には非常にすごいシステムなのですが、完璧ではないということは知っておく必要があります。

このEEWをスマートフォンのアプリやWebアプリで受信して表示する、というのがAsporia Traceがやろうとしていたことのひとつです。テレビのテロップやスマートフォンの緊急速報メールでもEEWは届きますが、もう少し詳しい情報(予想震度の分布とか、到達予想時刻とか)をグラフィカルに表示したいと考えていました。

ちなみに、日本のEEWは世界的に見てもかなり先進的なシステムです。メキシコにも似たようなシステム(SASMEX)がありますし、台湾や韓国でも導入が進んでいますが、日本の気象庁のシステムは観測点の密度やデータ処理の速さにおいて、世界でもトップクラスだと言われています。地震が多い国だからこそ、こういう技術が発達したとも言えます。


既存の地震情報サービスについて

地震情報を提供しているサービスは、公的なものから個人開発のものまで、たくさんあります。思いつく範囲でいくつか挙げてみます。

まず、気象庁。これが一番公式で、一番信頼できるソースです。地震が発生すると、震源地、マグニチュード、各地の震度などが順次発表されます。ただ、Webサイトのデザインは、まあ、お役所のサイトという感じです。情報は正確ですが、ぱっと見てすぐに状況を把握できるかというと、慣れていないと少し難しいかもしれません。

次に、テレビ。NHKをはじめ、各放送局が地震発生時に速報テロップを出したり、特別番組に切り替えたりします。情報の信頼性は高いですが、テレビを見ていないときには当然届きません。最近はNHKがインターネットでも同時配信をしているので、以前よりはアクセスしやすくなりました。

そのほかに、個人や有志が開発しているWebアプリやスマートフォンアプリもあります。たとえば強震モニタのデータを利用したものや、気象庁の発表データをリアルタイムで地図上に表示するものなどがあります。これらのツールの中には非常によくできたものもあって、正直なところ「自分がつくらなくても、これでいいのでは」と思うこともありました。実際、それは今でもときどき思います。

じゃあなぜ自分でつくろうとしたのかというと、結局のところ「自分の好みに合ったものがほしかった」というのが一番大きいです。情報の出し方、デザイン、優先順位のつけ方、色の使い方、フォントの選び方。そういう細かいところが、自分の感覚とぴったり合うものがなかなか見つからなかったのです。これは既存のサービスが悪いという話ではなく、単に好みの問題です。

たとえば、ある情報モニターは機能が非常に豊富なのですが、自分にとっては情報が多すぎて、本当に知りたいことがどこにあるのかを探すのに時間がかかるように感じました。別のものはシンプルで見やすいのですが、ちょっと物足りないと感じる部分もありました。そういう「帯に短し襷に長し」の状況が続いていて、「だったら自分で、自分が一番使いやすいと思うものをつくろう」と思ったわけです。


どういうものをつくりたかったのか

Asporia Traceでつくりたかったものを一言で言うと、「必要な情報が、必要なタイミングで、目に入ってくるモニター」です。

もう少し具体的に言うと、以下のようなことを考えていました。

特にこだわりたかったのは、「地震がないときの画面」です。地震情報モニターというのは、地震が起きていない時間のほうが圧倒的に長いわけです。その間、画面がごちゃごちゃしていたら、いざ地震が起きたときに「あれ、いつもと何が違うんだ?」となりかねません。平常時はすっきりしていて、何か起きたときにだけ情報が浮かび上がってくる。そういうデザインにしたかったのです。

結果的に、α版ではそこまでの完成度には至りませんでした。やりたいことはたくさんあったのですが、実装が追いつかなかった部分も多いです。これはもう単純に、自分の技術力と時間の問題です。


地震観測の歴史

ここで少し、地震観測の歴史について書いてみたいと思います。Asporia Traceとは直接関係ない話も多いですが、地震情報モニターをつくろうとするうえで、そもそも人間は地震というものとどう向き合ってきたのかを知ることは、無駄ではないと思います。たぶん。

地震を科学的に観測しようという試みは、意外と古くからあります。よく知られているのは、中国の後漢時代(西暦132年頃)に張衡という学者がつくったとされる「候風地動儀」です。壺のような形をした装置の周囲に龍の口がいくつかついていて、地震が起きるとその方角の龍の口から球が落ちて、地震の方向がわかる、というものだったそうです。本当にちゃんと動いたのかどうかは諸説ありますが、少なくとも「地震を何らかの装置で検知しよう」という発想が1900年近く前からあったということは驚きです。

近代的な地震計が登場するのは19世紀のことです。1880年代にイギリスの地質学者ジョン・ミルンが日本で地震計の開発に取り組みました。彼は日本に長く滞在し、日本地震学会の設立にも関わっています。日本は昔から地震が多い国ですから、地震研究のフィールドとしてはこれ以上ないくらい適した場所だったのでしょう。

20世紀に入ると、地震計の技術は飛躍的に進歩します。アナログの記録計から、デジタルのセンサーへ。そして、インターネットの普及により、世界中の地震計のデータをリアルタイムで共有できるようになりました。現在の日本には、気象庁や防災科学技術研究所が設置した数千か所の観測点があり、日本列島の地面の揺れを24時間監視し続けています。

そして2007年、気象庁が一般向けの緊急地震速報の提供を開始しました。地震波のデータをリアルタイムで解析し、強い揺れが届く前に警報を出す。このシステムの実現は、高密度の観測網、高速なデータ通信、そして高度なアルゴリズムがあって初めて可能になったものです。

こうして見ると、人間は数千年をかけて、少しずつ「地震を知る」手段を発展させてきたことがわかります。Asporia Traceのようなツールは、その長い歴史のほんのいちばん端っこにある、小さな小さな試みにすぎません。でも、先人たちの積み重ねがあるからこそ、高校生が個人でこういうものをつくれる時代になったわけで、それはすごいことだなと思います。


自然災害について考える

自然災害のイメージ
自然災害のイメージ

Asporia Traceは地震情報のモニターですが、地震というのは自然災害のひとつにすぎません。台風、洪水、土砂災害、火山噴火、津波。日本は、ほぼすべての種類の自然災害が起こりうる国です。そのことについて、少し考えてみたいと思います。

自然災害というのは、基本的に防ぐことができません。地震を止めることはできないし、台風の進路を変えることもできません。人間にできるのは、「備えること」と「被害を減らすこと」だけです。防災(disaster prevention)という言葉がよく使われますが、実際には「防ぐ」というよりも「減らす」というほうが正確で、最近では「減災」(disaster risk reduction)という言葉のほうが使われるようになってきました。

では、具体的にどうやって「備える」のか。これがまた難しい問題です。

まず、ハード面の対策。建物の耐震化、堤防の整備、避難路の確保、備蓄の充実。これらは行政や社会全体で取り組むべきことで、個人にできることには限りがあります。もちろん、自分の家の耐震性を確認するとか、非常用持ち出し袋を用意しておくとか、そういう個人レベルでの備えは重要です。でも、大規模な災害に対しては、やはり社会全体としての備えが不可欠です。

次に、ソフト面の対策。情報の伝達、避難の判断、日頃からの意識づけ。緊急地震速報も、津波警報も、このソフト面の対策のひとつです。情報が正確に、素早く、わかりやすく届くこと。そして、届いた情報をもとに適切な行動をとれること。この二つがセットで初めて、情報は人の命を守る力になります。

Asporia Traceは、この「情報の伝達」の部分に、ほんの少しでも貢献できないかと思ってつくり始めたものです。気象庁の情報があって、テレビの速報があって、スマートフォンの緊急速報メールがあって、そのうえでさらに個人がつくったモニターアプリに何か意味があるのか。正直なところ、よくわかりません。でも、情報に触れるチャンネルが多ければ多いほど、見逃すリスクは減ると思います。たぶん。

それに、自分で地震情報のモニターをつくるという行為そのものが、地震や防災について考えるきっかけになります。少なくとも、自分自身にとってはそうでした。EEWの仕組みを調べ、地震波のことを勉強し、日本の観測網の規模に驚き、過去の大地震の記録を読む。つくるという行為を通じて、知識が増え、意識が変わる。それだけでも、つくった意味はあったのかもしれません。


結局どうしたらいいのか

自然災害に対して、個人として結局どうしたらいいのか。これは本当に難しい問題で、ここに明確な答えを書けるわけではありません。そもそも明確な答えなんてたぶん存在しないのですが、考えたことを書いてみます。

まず、「知ること」。自分が住んでいる場所にどういうリスクがあるのかを知る。ハザードマップを確認する。過去にどういう災害があったのかを調べる。これは地味だけど、とても大事なことだと思います。自分の場合、鎌倉に住んでいるので、相模トラフ沿いの地震や、それに伴う津波のリスクがあります。実際に鎌倉は、1923年の関東大震災で大きな被害を受けています。

次に、「備えること」。非常用持ち出し袋を用意する。水や食料を備蓄する。家具の転倒防止をする。避難場所を確認しておく。家族との連絡方法を決めておく。これらは、やればいいとわかっているけれど、なかなかやらないものの代表例です。自分も偉そうなことを言える立場ではなく、正直なところ備えは十分とは言えません。この文章を書きながら、「やらなきゃな」と思っています。

そして、「関心を持ち続けること」。これが一番難しいのかもしれません。大きな災害が起きた直後は、みんな防災のことを真剣に考えます。でも、時間が経つと、どうしても日常に戻ってしまう。「喉元過ぎれば熱さを忘れる」とはよく言ったもので、人間は痛みを忘れるようにできているのだと思います。それは生きていくうえでは必要な機能なのかもしれませんが、防災の観点からは厄介です。

Asporia Traceのような地震情報モニターも、ある意味では「関心を持ち続けるためのツール」なのかもしれません。日常的に地震情報を見る習慣がつけば、防災への意識も少しは維持できるのではないか。そう考えると、地震がないときにも静かに存在し続けるモニターには、それなりの意味があるのかもしれないな、と思います。

でも同時に、ツールだけでは限界があるとも思います。本当に大事なのは、ひとりひとりが「自分ごと」として災害のことを考えることで、それはどんなに優れたアプリケーションをつくっても、代わりにはなりません。テクノロジーは助けにはなるけれど、最終的に判断して行動するのは人間です。

こういうことを書いていると、だんだん話が大きくなりすぎている気もしますが、地震情報モニターをつくろうとしたことで、こういうことを考えるようになったのは事実です。つくり始めたときは「見やすい地震情報アプリがほしい」くらいの動機だったのですが、つくっているうちに、地震のこと、防災のこと、情報のこと、いろいろ考えるようになりました。

これを読んでいる方が、もし地震の多い地域に住んでいるなら(日本に住んでいる時点でだいたい当てはまりますが)、この機会にハザードマップだけでも確認してみてください。自治体のWebサイトで見られるはずです。それだけでも、何かの役に立つかもしれません。


現在の状況

Asporia Traceは、α版を2026年6月8日に公開し、同年6月14日に公開を終了しました。公開期間はわずか6日間です。短い。

公開をやめた理由は、自分の中で「これだ」という形にまだなっていないと感じたからです。つくり始めたときは勢いがあったのですが、公開してからあらためて見返すと、「ここはもっとこうしたい」「ここは全然ダメだ」という部分がたくさん出てきました。そのまま手直しを続けていくこともできたのですが、中途半端な状態のものをずっと公開し続けるよりは、いったん下げて、じっくり考え直したほうがいいかなと思いました。

今後また公開するかどうかは未定です。するかもしれないし、しないかもしれません。するとしたら、もう少しちゃんとしたものにしたいと思っています。でも、「ちゃんとしたもの」がどういうものなのか、まだ自分の中でも明確には見えていないので、しばらくは考える時間が必要そうです。

もし興味を持ってくださった方がいたら、ありがとうございます。いつかまた何か出せるといいなと思っています。



Asporia Trace / neplov
このページに関するお問い合わせは、neplov.net をご覧ください。

このページに掲載されている情報は個人の見解であり、正確性を保証するものではありません。
地震に関する正確な情報は 気象庁 の公式発表をご確認ください。

2026.06.14